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2017/03/13 (Mon) 21:14
【イトーヨーカドー武蔵小杉駅前店 西川店長インタビュー】(その1)

「全力でフロンターレを応援し、アンテナになって地域に拡がっていくお店に(前編)」

タワーマンションがそびえたつ街・武蔵小杉。至るところで再開発が進み周辺も工事中の中、いささか窮屈そうにその店はある。イトーヨーカドー武蔵小杉駅前店。この中に約1年前、川崎フロンターレのショップが、3ヶ月の期間限定ということでオープンした。そこがわずか1年で、フロンターレサポーターなら知らぬ者はいない、こんなにもサポーターに愛されるお店となろうとは、そのときは誰も思いもしなかったに違いない。

その仕掛け人が、ここの店長・西川晃石さん。「フロサポあんのパンまつり」を始め、大手流通の会社らしからぬユニークな店頭イベント企画を連発し、一気にサポーターの心をつかんだ西川店長に、仕事の流儀とこの場所でこの仕事に賭ける想いを伺った。

「どうしてフロンターレとタッグを組んでやるようになったのですか?」

[インタビュー・文・写真 金野 典彦]

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■Jリーグとの接点は全くなかった

――こちらに来るまでにサッカーやJリーグとの接点はあったのですか?

全くありませんでした。唯一あったとしたら、私の息子がサッカーをやっていたので、代表選をテレビで見るとかサッカーのテレビゲームをするとかで、フロンターレはもとより、Jリーグのことは全然知らない世界でした。

――こちらに赴任される前にも、いろんな地域で仕事をされて来たのですか?

全国各地、10カ所以上の店舗に勤務して来ました。イトーヨーカドーの品揃えは基本的には全国画一で、それがチェーン店の醍醐味ではありますが、地域のお客様に本当に全ての商品が支持されているかというと、地方に行けば行くほど、そうではないのが正直なところです。定番のものは売れますが、今まで「本当にこれでいいのかな」と疑問を抱きながら仕事をしてきたところはあります。

2015年の11月、ここの武蔵小杉駅前店に赴任したとき、隣にグランツリー店が出来ていたこともあり、このお店は非常に厳しい数字が続き、このまま淘汰されてもおかしくない状況に置かれていました。当初は、グランツリーで売れるものをこの店でも置く、言わばグランツリーのミニチュア版をつくろうとしていましたが、その方針に疑問を感じました。グランツリー店全体をじっくり見ると、完全にナショナルブランド中心の品揃えで、川崎の地域性が殆ど打ち出されていないことを強く感じたので、だったら地域での営業年数が長い武蔵小杉駅前店は、その逆の方針で、もっと地域に根差した品揃えに変えていこうと思いました。

ph1.jpgサポーターが気軽に立ち寄れ、親しみやすい雰囲気の店内

■群馬・藤岡店でのチャレンジ

そう考えたのには、理由があります。私が店長になったのが、ここに来る前の群馬県の藤岡店だったのですが、業績も厳しい中、全国画一というチェーンストアの弱点を無くすため、地域を見て地域に合った商品を揃えていこう、もう根底から変えて行かなければお客様の支持は得られないという思いがありました。過去のデータを見ても本当の問題点はわからないと思ったので全部自分で調べようと、店舗近隣のありとあらゆる所を歩き、それこそ商店から取引先まで、全部回りました。すると、商品の品揃えの違いや価格、売れ方の違いがあることが見えて来ました。

例えば群馬県はこんにゃくの産地で、生産量はダントツの日本一、消費量も全国2位なんです。でも実際、それまでの藤岡店ではこんにゃくは殆ど売れていませんでした。それはこの地域には種類も量も本当に様々なこんにゃくがあり、価格ももっと安いものがあるにも関わらず、ヨーカドーのセブンプレミアムなどの定番商品しか置いていなかったからです。これじゃ売れるはずもないので、地域のお店や生産者を回ってこんにゃくの品揃えを増やすところから始め、ありとあらゆるところを変えていきました。すると次第にお客様が増えて、数字にあらわれて来たんです。これが切り崩すポイントだということが自分なりにわかってきたので、それをヒントに衣食住それぞれの商品の品揃えを変えて行きました。約1年間のなかで、幸い業績も回復をしはじめました。

■青のタペストリーが目についた

川崎に来たときも、とにかくまずこの地域を知ろうと、商店街や公共施設、駅などこの地域を自分の足で歩いてみたところ、やたら青色が目に入って来たんですよね。フロンターレの青色のタペストリーだった訳ですが、「何でこんな多くの場所にこのタペストリーはあるのだろう?」とそれをきっかけにフロンターレに興味を持ちました。

店舗スタッフに聞くと、等々力競技場というスタジアムがここから近くにあり、非常に盛り上がるチームで、既に当店の地下食品売場で「かわさき応援バナナ」の取り扱いがあり、フロンターレとの付き合いはあるというじゃないですか。ならば1回試合を見てみようという訳で、2015年の11月、着任間もなかったのですが等々力に試合を観に行きました(※リーグ最終節のベガルタ仙台戦)。試合はフロンターレが勝利しましたが、勝敗よりもどれだけの人が関心を持って観に来ているのかが気になっていました。そのときの入場者数が22,000人くらいと(※公式には22,511人)、優勝がかかっている試合でもないのにこれだけの人が入っていることに驚きました。しかも、やたら熱く応援して盛り上がっている場所があるんですね。そこがGゾーンだった訳ですが、興味があったのでハーフタイムから後半の途中までGゾーンの後ろで応援の様子を見て、Gゾーンの熱さを体で感じました。スタジアム内のグッズショップにもお客さんがたくさん入り、フロンパークの飲食・物販のブースにも行列ができていたので、これだけ熱気があり人が集まるのなら、ウチのお店でグッズショップを展開できればチャンスがあるのでは?と思いました。

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試合日にはタペストリーに加え、フラッグを掲げる商店街も

その後クラブと翌年にかわさき応援バナナ販売イベントの打合せがあったときに、「グッズショップをやってみたい」と提案をしましたが、近隣にオフィシャルショップの「アズーロ・ネロ」があるからと、断られてしまいました。「アズーロ・ネロ」はどんな店かとすぐに見に行くと、水色の配色が綺麗な統一感のあるお店でお客さんも入っていて、「いいな、ウチに入れたいな」と更に思ってしまいました。

■クラブとイトーヨーカドー本部へ繰り返し要望

私は、「『アズーロ・ネロ』は等々力での試合日にサポーターが寄っていくかもしれないけれど、営業時間は短く定休日もあり、駅からも近くはないので、近隣の住民が日常的に通うお店ではないでしょう。一方、近隣住民が毎日立ち寄るヨーカドーは、アズネロとはお客さんの層が違い、ライトなサポーターや、ちょっと興味はあるけど試合を観に行くほどじゃないようなお客さんを取り込めて、アズネロとうまく棲み分けができるはずですから、まずはやらせてもらえませんか」と提案しました。そして熱心なサポーターの方が後押ししてくれたこともあり、交渉の結果、約3か月の期間限定のアズーロ・ネロの出張店舗というかたちでならということで、やっと承諾を取り付けることができました。

本部の了解も取らなければなりません。商品をフロンターレから直納するなどイレギュラーなことが多く手間がかるため、本部からは「初期投資もかかるし、売れるか売れないか分からないので、やるなら催事的なもので」と言われましたが、「それではお客さんが固定化せず、効果は見込めないから、常設で」と上申しました。年間の収支計画書を提出すると「その計画の根拠が無い」と一蹴。「だったら、3ヶ月の販売テストで年間目標計画の4/1を達成したら、常設させてください」と懇願し、承諾されました。

そして昨年の3/5にオープンを迎えました。その日が等々力の開幕戦だったということもあり、多くのサポーターが来店。その後もユニフォームを中心に好調に売れ続け、結果5月上旬には3ヶ月間の目標計画を達成することができました。

それを持って本部に常設化の話を通し、クラブにも常設化の提案をしました。ヨーカドーが売れても、「アズーロ・ネロ」の売上が下がったとしたら、クラブはそれを良しとはできなかったでしょうが、結果は両方の売上が上がり、クラブとヨーカドー両方のメリットがあることが確認できたので、5月上旬、やっと常設の話が決定したのです。

常設になったことで、ヨーカドーのような全国チェーンの店がサッカーチームのグッズショップを自営で持つことが珍しいこともあり、多くのメディアが取材に来てくれました。お陰で順調に売り上げが増えて行ったのですが、落とし穴が待っていました。いちばんの売れ筋がユニフォームだったのですが、その在庫が少なくなり、品薄になってしまったのです。そうしたら売上が一気に下降してしまいました。ユニフォームは単価が高く、ショップの売上の大半を占めていました。

■自らツイッターを始める

実は、期間限定のときも常設化のときも、お店オープンの告知は全部クラブに依存し、イトーヨーカドーとしては全然やって来なかったのです。このままじゃ駄目で独自の集客告知をしなきゃと思っても、コストをかけずにできるいい方法がわからず、困ってしまいました。

そんなとき店内を見ると、お客様が店内の写真をこっそりという感じで撮っていました。小売店の店内は原則撮影禁止とされていますからね。それを見てこれは違う、とにかく興味を持ってもらうことが大事だから、逆に写真撮影をしてもらってどんどんSNSに上げて拡散してもらおうと、「ショップ内は撮影自由。SNSアップもOK」との告知を出しました。

でも思ったほどアップされずどうしたものかと考え、何かしらフォーカススポットが必要だろう思い、川崎大師・小田切商店さんの必勝ダルマを置きました。マスコットのふろん太にも来てもらってダルマに「目入れ」をすると、SNSへのアップが増え、情報が拡散していくようになっていきましたが、それも一過性で、なかなか長続きしませんでした。

それまで私はSNSは全くやって来なかったのですが、こうなったら自分でやってみようと、初めて自分でツイッターをやってみることにしました。ヨーカドー公式にしてしまうと内容が制限されて面白くないので、フロンターレサポーターに向けた非公式のもので、フロンターレの情報に特化した内容で発信することにしました。

でもなかなか拡まらず、フォロワーが全然増えない。内容を変えてツイートしても反応が返って来ない。2か月間くらい試行錯誤を続けてもうまく行かず、ちょっとこれはダメかなと思い始めたある日…

■「コムゾー」のぬいぐるみが転機に

この地域のケーブルテレビ局・イッツ・コミュニケーションズのキャラクターである「コムゾー」のぬいぐるみが新発売になったときにその告知ツイートをしたところ、情報が一気に拡散されたのです。びっくりしました。大人気で「アズーロ・ネロ」で完売してしまったとき、まだヨーカドーには残っていて、すると今度は「ヨーカドーにまだあるよ!」という情報が拡散され、「SNSの情報ってこうやって拡散していくんだ」とはじめて実感しました。それを機にツイッターでの情報の拡まり方をやっと掴めるようになりました。
以降、お店で声を掛けてくれるサポーターが増えました。しかも前向きで建設的な提案をしてくれるので、それを積極的に取り入れ、売り場に活かしていきました。当初はこのショップは自分とお店のスタッフで作っていると思っていましたが、ここはサポーターの協力を得ながら、サポーターと一緒に創っていくお店なんだなと思うように変わっていきました。

 ■サポーターに聞いて、サポーターとの距離を縮める

武蔵小杉から等々力への道がわかりにくくて迷う、という声がありました。実際自分が行ったときも、行きは大丈夫だったけど、帰りは武蔵小杉を目指していたのに新丸子に着いちゃったんです。自分も迷ったくらいだから、アウェイチームのサポーターは尚更わかりにくく迷うだろうということで、お店から等々力までの案内地図を作製しました。あの地図は、こう行けば等々力に何とか迷わずに着けるよう、自分の足で歩いてポイントらしきところを見つけながら、自分の体験を込めて作ったものです。

私のフロンターレとの関わりはまだ本当に短く、ショップの常設前に等々力に行ったのはわずか2試合でしたから、フロンターレのことは長らく等々力に通い続けているサポーターに聞く方がいいと思ったので、ツイッターでもお店ででも、サポーターからいろんな意見を聞き、それを反映させるようにしました。

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西川店長の体験を反映させてつくった等々力への案内地図

後編に続く)


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