2017/01/30 (Mon) 21:43
【川崎フロンターレ 天野部長インタビュー】(その1)

「『スタ宙』に書ききれなかったこと」(第1回/全3回)

Jリーグ・川崎フロンターレのプロモーション部部長・天野春果氏。フロンターレサポーターなら知らない人はいない、言わずと知れた名物プロモーション部長が、1月いっぱいでフロンターレから離れ、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に出向する。

フロンターレをまさに離れるタイミングのいま、天野部長の企画の根底にあるもの、陸前高田に入れ込んだ理由、そしてなぜオリンピックに行く決断をしたかなど、昨年11月に上梓した「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街」(スタ宙)に書ききれなかったことを天野部長自身に語ってもらった。

[インタビュー・文・写真 金野典彦 (※一部写真を除く) ]

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■体感したことしか信じない

――天野さん、元旦の吹田スタジアムでの天皇杯決勝、ゴール裏のいちばん熱いゾーンで応援していましたよね。あの日はJリーグの主催試合ではない天皇杯でご自身の仕事は無いから、あんな風に応援したのですか?

天皇杯に限らず、リーグ戦でもアウェイに行ったときはゴール裏で応援しているよ。最初は座って応援していたけど、「それで選手の力になっているのか?」と思うようになったんだよね。アウェイに行って自分だけ「のほほん」としているなんておかしな話で、クラブスタッフとしてやれることは、サポーターと同じで、声を出して応援すること。自らやることで、サポーターの応援の大変さを体感しておくことがすごく大事だと思っている。自分がいる間にそれを徹底しておこうと思い、先頭に立って他のクラブスタッフにも声を掛け、一緒に応援している。

実際中に入って、応援の中心地で90分跳ね続けると、試合の動きによるサポーターの心理の変化も良くわかるんだよね。先制点を取られるとズンッと体が重くなり、声は出なくなるし高く飛べなくなってくる。でも点を取り返すとまた動けるようになる。ホント精神的なものが大きくて「ああ、サポーターはこういう精神状態の中で90分間選手たちと共に戦っているんだ」って体で理解することができる。いくら声出したって高く跳ねたって、選手たちからボールがパスされるわけでもシュートを打てるわけでもないのに、「フロンターレの一員」として試合に出てる感覚がある。だから負けたときの悔しさや、文句を言いたくなる感情が芽生えることも体感としてわかるようになったので、サポーターがそういう気持ちを抑えて、選手を拍手で迎えて「次、がんばろうぜ」と言ってくれる気持ちのありがたさもまた、わかるようになった。

だから、僕がいちばん大事にしているのは実体験で、体感したことしか信じない。クラブの部長がサポーターの最前線に入って応援しているなんて聞いたことないし、他のクラブからしたら信じられないかもしれないけど、僕にとってはそんなの関係ない。外から見ているだけじゃわからないことは、この応援のようにとにかく中に飛び込む。行動を起こして体感してこそ次のアクションが起こせると思っている。

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ゴール裏でサポーターと共に応援する天野部長(photo@カンチ)

■バナナ配布の前は正直眠れなかった

――天野さんの企画には、インパクトあるコラボイベントなどのユニークさ・奇抜さに注目が集まりがちですが、私の見立てはちょっと違っています。私の印象に残っているイベントは――

(ここで一枚のハート型の紙を取り出す)

うわ、これ懐かしいね!2014年だっけ?

(取り出したのは、2014年9月20日、等々力での多摩川クラシコのときにホーム側の来場者にバナナに添えて配布した「バナナは笑顔のくだものです。」と記したハート型の紙)

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この紙を添えてバナナ配布はされた

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裏には英語で“BANANA ALWAYS MAKES BIG SMILE! FRONTALE LOVES BANANA AS FRUITS.”と。

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準備されたバナナの山

――あの年の8月23日、ニッパツ三ツ沢球技場でF・マリノスのサポーターがフロンターレとの試合中にバナナを振って見せた差別事件がありました。その後の等々力での多摩川クラシコのとき、もともとFC東京サポを含む全来場者にスポンサーのドールさんのバナナの配布を予定していたのが、FC東京側からの配布辞退もあり、”常識的”な判断をすれば配布中止が妥当を思われるところを、「だからといって中止にするのは筋が通らない」と、あのカードを添えてバナナ配布をやり切ったことに、私は天野さんの強い意志と気概を感じたのですが、実際はどうだったのですか?

これは人種差別問題が絡んでいたから、正直ものすごく対応が難しかった。FC東京が断って来たのは、“常識的”で当たり前の反応で、それを受けてフロンターレが配らなかったとしても、誰も文句は言わなかっただろうね。

でも僕は、日本の中の“そういうもの”を突破したくて、フロンターレで戦ってきたからね。

だけど、やるに当たっては、正直のものすごく悩み、眠れなかった。“常識”ではやらないし、模倣犯みたいなのいるからリスクもあるし、当日20,000人の来場者の中で1人でもバナナを振る奴がいたらアウトで、スポンサーのドールさんにも迷惑を掛けてしまうリスクもあるから、配布は中止すべきという声は社内にもあった。

でもこういうことをやり切れるクラブが日本の中で出てこないと、日本のスポーツ界が変わらない。僕はフロンターレがそうであって欲しいと思って来たから、このとき、これはフロンターレが行動で示すべきことだと思った。ある意味賭けの部分があったけど、これはやり切ろうと覚悟を決めた。

■同志がいるからやり切れる

だだ、やろうと思っても1人でできることじゃなく、どういう創意工夫をしてやれるように持っていくかが大事だから、やるための手段・方法を考えた。このときは、とにかくバナナを提供してくれるドールさんの協力無しでは成り立たなかったから、ドールに行って、責任者の方と長時間話し込んだ。

このカードに載せたメッセージで言いたかったことは、バナナは「差別のための道具」じゃなくて「食べもの」なんだということ。こういうときだから一緒に戦って欲しいと、ドールの責任者の方に言った。ドールのバナナは食べものであって、人種差別の象徴じゃないということを社会に伝えましょうと。ドールの責任者の方は「わかりました、やりましょう」と受け入れてくれて、社内を説得してくれたから実現できた。だからドールには、クライアントというよりも“同志”という感覚がある。

何事をやるにも同じ志を持つ人(=同志)を見つけ、目指すところまで導けるかが大事で、このハート型の用紙を作るのも、地元川崎の印刷業者・大和の馬場さんという方が、時間がなくて大変な中「やりましょう」と協力してくれた。

同志という意味では、サポーターの山ちゃん(応援団体・川崎華族の山崎真さん)もそう。応援団とは言っても、彼らはいわば皆ボランティアで、一切特権を与えている訳じゃないのに、地元川崎を盛り上げたいという熱い気持ちを持って動いてくれている。一緒にいろいろとやって来たけど、これで満足ということはなく、貪欲にどんどんアイデアを出して来る。そういう“同志”に出会えたことは大きいね。

クラブの存在意義は、《街を明るくしていく、元気にしていく》ことで、街の人たちがこの志に賛同し、行動を起こしてくれるかがすべて。社内の反対は説得すればいいのであまり気にならない。大事なのは街をどういう風にしていきたいかを街の人たちと一緒になって考え、行動を起こしていくかだから。

――天野さんの企画は、根底に「世間の流れにおもねず、自分のアタマで考え、勇気を持って実行する」ことと「筋を通す」ことが根底にあるから、他人が真似できず、サポーターの心に届くのだと思っているのですが。

そこはまさしく大事にしているところ。僕はフロンターレが“そういうもの”に屈せず、やり切れるクラブになりたいと思ってやってきたからね。

第2回に続く)

テーマ : Jリーグ - ジャンル : スポーツ

2017/01/09 (Mon) 12:36
新しいテーマで書くことにしました

これまで、他サイトでブログを書いて来ましたが、この度、フロンターレのある日常生活をテーマに、別途ブログを立ち上げ書いてゆくことにしました。

どうぞよろしくお願いいたします。

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